この定理が美しい

何か面白そうな本はないかと、本屋さんでぶらぶら見ていたら、目に留まったので買った。一般向けの数学書であるが、数式がたくさん書いてあるので、ほとんど理解できないだろうが、眺めるだけでもよいと思った。20名の分野の異なる数学者が自分が美しいと思う定理を思うままに書き綴ったものだ。前書きに「数学者が感じる美しさとは何か、数学者の美意識、価値観のようなものを読み取っていただけたら幸いです」とある。

数式で美しいというと、映画にもなった小川洋子の小説「博士の愛した数式」にも登場するオイラーの等式
  e^{i\pi} + 1 = 0
が啓蒙書では定番である。しかし、これについて触れている人は一人もいない。複素平面では単に(1, 0)を180度回転させて(-1, 0)にしただけだから、数学者にとっては当たり前すぎて美しいとは思わないのかも知れない。

僕らのコンピュータサイエンス分野については「λ計算の美しさ」がある。内容はChurch-Rosserの合流定理に関するものだ。この分野ではYコンビネータが美しいという人も多い。Yコンビネータは無名関数の再帰的定義に登場するが、シンプルな入れ子構造であり美しいと思う。僕も以前にJavaScriptに絡めてそのエントリーを書いた。ここでは、Yコンビネータの1つであるチューリング不動点演算子が登場するが、その美しさには一言も触れられていない。合流性という単純な性質とその証明が美しいのである。しかし、著者は「λ計算が全面的に美しいわけではない。(より厳密に定式化しようとすると)美しいというには複雑すぎる。λ計算の美しさは、ある特定の角度からのみ見ることができるのかもしれない」と結論付けている。

今まで全く別々のものと考えられていたものが、実は深いところで繋がっていたという発見は数学や物理の醍醐味であり、より高い山に登れば全体を見渡すことができ、その山に登った者でしか眺めることができない美しい風景がある。その景色を僕も見てみたいと思っている。

この定理が美しい

この定理が美しい