まつもとゆきひろ コードの世界

Rubyの生みの親であるmatz氏が書いた本である。某缶コーヒーのコマーシャルではないが、本人が直々にRubyについて語るのを読めるのはこの上ない「贅沢」である。それだけに、ソースコードのインデントの崩れや印字ミス、仮名漢字変換の誤り、すぐ直前に書かれたことが繰り返し書かれているなどの体裁に関する質の低さが目に付き残念である。もっとも、これはmatz氏の責任ではなく、スタッフ/出版社の問題である。matzにっきでも間違いが指摘されているが、それこそ、こういうものは出版前に広くレビューを募って品質を高めるべきであった。

内容に関しては、どのような読者層を想定しているのかもイマイチわからない。Rubyについての解説本ではないし、熟練したプログラマが読んだら物足りないと感じるだろう。「スーパープログラマーになる14の思考法」と副題がついているが、単に14章の構成になっているだけで、そのような意図があるわけでなない。Ruby開発にまつわる裏話やエピソード、matz氏のコードに対する思いなどが熱く語られているわけでもない。

しかし、この本をプログラミングが楽しいと感じ始めた10代の人が読んだらどう感じるだろうかと想像したら、また別の見方もできる。プログラムを書くという、奥が深く他のものに例えようがない独特の世界に踏み出そうとしている時期にこの本を読んだ場合には、非常に重要な役割を果たすのではないかと思う。プログラミングはコードを書くことであり、ツールを使いこなすことではない。初心者向けの本にはそもそも言語についての解説が薄く、ツールを使うためのノウハウだけが書かれているようなもので溢れている。とてもプログラミングの楽しさが伝わるとは思えない。そもそもそういうことを目的としていない。人が物事に興味を持つとき、難しそうだけど面白そうという知的好奇心を揺さぶられるかどうかが重要である。プログラムを始めたばかりの人には、本書の内容を全部理解するのは難しいであろう。しかし、それを理解してその先に何があるかを自分の目で確かめ、「コードの世界」を探求したいという好奇心旺盛な若い人にはお勧めできる本である。

まつもとゆきひろ コードの世界?スーパー・プログラマになる14の思考法

まつもとゆきひろ コードの世界?スーパー・プログラマになる14の思考法