ガロア 〜天才数学者の生涯〜

ガロアが20歳の若さで決闘で死んだことはあまりにも有名であるが、本書はその生涯を時代背景とともに掘り下げ、ガロアの人物像と彼が後世に残したものの意味が書かれている。

若干20歳の青年が、その後の数学の歴史を塗り替えてしまうほどの偉業をいかに成し遂げたのか。15歳のときルジャンドルの「幾何学原論」と出会ったことが数学との最初の出会いという。その本をマスターするのに通常は二年かかるといわれているものを、たった二日で読破したというから驚きだ。それ以降、数学以外には全く興味を示さず、一切の勉強もしなかった。かなり扱い難い学生だったようだ。闘争心が強く周囲に対して攻撃的な態度をとり、理解者が少なく孤立化していく。それが悪循環となり、自分への過小評価や陰謀などの妄想にとりつかれてしまう。

論文を提出するも、不運が重なり査読者の手元から二度も紛失している。不信感が募り、悶々とした疑心暗鬼が心の闇を覆う。

後にガロアがその二編を短くまとめた概要が現在残されているだけである。その内容が今日知られる「ガロア理論」でるが、それは元の論文の全体の一部に過ぎない。ガロアはもっと深遠で高次なものに到達していたようだ。しかし、残念ながら、あまりにも突然に早く逝ってしまったため、その内容を知ることはできない。

大学に入ってから、持ち前の闘争心からか、共和主義者として徐々に政治活動にのめり込んでいき、危険人物とマークされるようになった。ちょっとした事件から収監所に収容され裁判にもかけられる。

決闘は突然決まったようだ。あらゆる手段を考えて回避を試みたができなかったという。「自殺説」「陰謀説」「恋愛説」などもっともらしい理由はあるが、どれも確かな証拠は何もない。

決闘直前に友人のシュバリエに全てを託した。恐らく、ガロアは確信していたのではないか。自分はその決闘で死ぬことになるが、自分の数学は後世に残り続けるだろう。いや、残さなくてはならないと。しかし、ガロアが到達していたものは、当時のレベルを遥かに超たもっともっと深いものだった。その失われた内容は想像することしかできない。

もし、もっと生きていてくれたらと、取り返しのつかない歴史が悔やまれるが、著者の次の言葉が印象に残る。

「数学という学問はこのような視点からも鳥瞰することができる。このことを二十歳のガロアは著者に教えてくれた。それだけでも著者は幸せだ!」

今年はガロア生誕200年である。さまざまなイベントが計画されている。天才の残した足跡に思いを馳せてみよう。

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書)

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書)